疲れてる時に読みたい話『幸運のきかい』

340: 癒されたい名無しさん
1/2 
『幸運のきかい』 

来る日も来る日も満員電車に揺られ、古新聞の数だけ退屈が増えていく代わり映えのしない日々。 
そんなある日のことだった。 
独り住まいの安アパートに帰宅し、お湯を注いだカップ麺の時間待ちをしていたそのとき 
突然、俺の目の前でピカッと光り、未来からやって来たという人物があらわれると 
唐突に『こううんのきかい』だと言って、それを置いて、またピカッと光ると消えた。 

「幸運の機械?」 

夢を見ていたわけでも、キツネにつままれたわけでもなく 
『幸運の機械』だという、それは目の前にポツンと残されていた。 
見た目は、一昔前に流行ったルービックキューブのようにも見える機械だった。 
恐々だったが、ガチャガチャと動かしてみても何も起きる様子はない。 
試しに『幸運の機械』とやらを握りしめ、競馬やら宝くじやら試してみたがどれも駄目。 
なにひとつ幸運なんてものは訪れなかった。 
ガチャガチャやって全面揃うと幸運が掴めるのかと思っても、いくらやってもいっこうに揃う気配すらない。 
なにが幸運の機械なんだ?と捨てようかとも思ったが、幸運を捨てるって縁起でもないなと、思いとどまる。 

暇つぶしに会社に持っていくとOLたちが「何これ?」と言って集まってきた。 
「こううんのきかい?なにそれ?」と興味津々に弄り倒す。 
でもやっぱり何も起きず、誰も揃えることも出来ず、やがて飽きられてしまう。 

341: 癒されたい名無しさん
2/2 
皆が興味を失う中、同僚のK子が「これをどうかすると幸せになれるの?」といつまでも熱心にガチャガチャやっていた。 
でも、いくらやっても揃うことがなく、毎日のように俺から奪うと休みの時間に飽きもせずガチャガチャと繰り返した。 
「絶対揃えて、幸せになって見せるんだから!」 
K子はそう言って、あげくの果てには俺の家まで押しかけてきてはガチャガチャ。 
今までろくに会話もしたことがなかった。とくに美人ってわけでもなかったが、 
知りあってみると料理が上手く家庭的で、そんなK子と俺はいつしか結婚した。 
子供もでき、ローンを抱えながら、とくに幸運を掴むわけでもなく 
相変わらずの代わり映えのしない生活を繰り返していた。 
例のそれは、いつしか子供のオモチャ代わりになっていて 
会社から帰宅すると小学生の息子が飽きずにガチャガチャやっている光景を見ては、母親譲りな性格だなと思った。 

それからまた数十年が過ぎて、例の『幸運の機械』は引き出しの中にしまったままになっていた。 
そして息子も結婚し、5歳になった孫を連れてやってきた。 

いつの間にか引き出しから見つけた例のものを孫がガチャガチャやっている。 
それを見て、隣りに寄り添っているK子の今では皺々になった手を握り、ふと思った。 
「あれ、やっぱり幸運のきかいだったのかもしれないな」と。 

『幸運のきかい』


ジェイクのしあわせってなあに? (ジェイク・シリーズ)

この記事をツイートする