切ない話「赤い稲妻」


もう二十年くらい昔だが、高校生だった俺は病院の売店でバイトしていた。
水曜発売のため、火曜日の夕方配送されてくる少年サンデーを一冊だけ別の所によけておくのが俺の日課だった。
水曜日の朝、院長の回診を済ませて車椅子で買いに来る9歳のガキのためにだ。
10冊くらい入ってくるから、別によけなくてもいいのだが、そのガキのために
必ず「特別予約のサンデー」を確保するのがその店の暗黙のルールだった。
車椅子の肘掛の部分に、マジックで描いた赤い稲妻。
そのガキが毎週楽しみにしていたのは「赤いペガサス」だった。
 
ガキが死んだ。あっけなく、病名だって知らない。
ただ死んだということだけを看護婦さんから聞いた。

物語のクライマックス日本GP、
満身創痍の主人公ケン・アカバが決死の猛追の果てに、
ラスト数週で先頭を走るマリオ・アンドレッティに遂に追いつく。

そこで物語よりも早く、そのガキの命は力尽きた。
どんなに読みたかったろうに。
20年以上経った今でも、あの車椅子の肘掛にマジックで描かれた赤い稲妻を思い出す

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